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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)1196号 判決

控訴人 竹村正男

右訴訟代理人弁護士 西橋儀三郎

控訴人 大野勇夫

控訴人 西田弌重

右両名訴訟代理人弁護士 池内判也

被控訴人 丸二商事株式会社

右代表者代表取締役 覚道作右衛門

右訴訟代理人弁護士 木原邦夫

同 木原康子

同 金田稔

主文

本件控訴をいずれも棄却する。ただし、原判決主文第一項を次のとおりあらためる。

控訴人竹村正男は被控訴人に対し別紙目録(一)記載土地上の別紙目録(二)記載第一建物三棟(第一、一建物は別紙図面(五)建物のうち赤線で囲む部分)を収去し、同記載敷地五四坪六合九勺を明渡せ。

控訴人大野勇夫は被控訴人に対し別紙目録(一)記載土地上の別紙目録(二)記載第二、建物一棟を収去し、同記載敷地九坪一合四勺を明渡せ。

控訴人西田弌重は被控訴人に対し別紙目録(一)記載土地上の別紙目録(二)記載第三建物二棟(別紙図面(四)建物のうち赤線で囲む部分)を収去し、同記載敷地一〇坪一合を明渡せ。

控訴人大野勇夫、同西田弌重は被控訴人に対し別紙目録(一)記載土地のうち別紙目録(二)記載第四通路七坪九合五勺を明渡せ。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一、七項同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の関係は、次のとおり附加するほかは、原判決事実摘示と同一(ただし、原判決二枚目裏八行目の「交渉を」を削り、同末行の「被告西田」を「被告大野」と、同四枚目表四行目の「登録」を「登記」と、同九行目から一〇行目の「原告本人」を「原告代表者本人」とそれぞれ改め、同四枚目裏一一行目の「大阪市」の次に「浪速区」を、同五枚目裏一行目の「記載の」の次に「第三」をそれぞれ加え、同物件目録(一)末行の「九六坪〇六」を「九六坪六」と、同物件目録(二)五行目の「二階建」を「二階坪」とそれぞれ改める。)であるから、これを引用する。

被控訴人の主張

一、被控訴人は昭和二六年九月七日訴外南海電気鉄道株式会社(以下南海電鉄という。)との間において、南海電鉄所有の原判決添付物件目録(一)記載の甲土地(以下甲土地という。)と被控訴人所有の同目録記載の乙土地(以下乙土地という。)とを交換したものである。南海電鉄は昭和二五年四月二二日大阪特別都市計画復興区画整理事業の施行者大阪市長から甲土地の換地予定地(土地区画整理法施行法六条・土地区画整理法九八条による仮換地、以下同じ。)として同目録記載丁土地(以下丁土地という。)を指定する通知を受けたから、特別都市計画法一四条一項の規定により、南海電鉄は右指定通知を受けた日の翌日の同月二三日から丁土地を使用収益することができるものであるところ、被控訴人は右従前の土地である甲土地の所有権を交換により取得したから丁土地の使用収益権を取得したものである。そして控訴人らは丁土地の使用収益する権限を有しない不法占有者であるから、被控訴人は甲土地について交換を原因とする所有権移転登記なくして甲土地の所有権取得を対抗しうるものである。仮に丁土地につき使用開始日の指定がないため、被控訴人がこれを使用収益することができないとしても、丁土地につき保存行為をなす権限があるから、丁土地を不法に占有する控訴人らに対し丁土地の明渡しを求めるものである。

二、なお、控訴人竹村正男所有の原判決添付目録(二)記載第一建物、同大野勇夫所有の同目録記載第二建物、同西田弌重所有の同目録記載第三建物(以上何れも第一建物、第二建物、第三建物という。)は何れも丁土地上に存在するところ、丁土地(換地予定地)は、従来の地番の(1)大阪市浪速区新川二丁目六八八番の二のうち宅地六九坪七合、(2)同所同番の三のうち宅地三合四勺、(3)同所六八七番の三のうち宅地二合三勺、(4)同所同番の五のうち宅地六坪二勺、(5)同所同番の六、宅地一〇坪七合三勺であって、右(1)、(3)、(5)の土地は、(ア)同所六八八番の一、宅地一合一勺、(イ)同所同番の二、宅地三二四坪九合三勺、(ウ)同所六八七番の三、宅地六一坪三勺、(エ)同所同番の六宅地一〇坪七合三勺、合計三九六坪八合の一部として、大阪市東部工区三七ブロック符号一、二八二坪一合に換地予定地の指定がなされ、その後右(ウ)の土地が(オ)六八七番の三宅地三一坪二合と(カ)同番の一一、宅地二九坪八合三勺に分筆されたため、右(ア)(イ)(エ)(カ)の土地が同ブロック符号一の二、二六〇坪八勺、(オ)の土地が同ブロック符号一の一、二二坪二合に換地予定地の指定がなされた。したがって、控訴人らは特別都市計画法一四条一項により従前の土地である右(1)(3)(5)の土地を使用収益することはできない。

控訴人大野の主張

訴外野上順司こと野上清定は昭和二四年八月訴外竹中寛二から第二建物の敷地である大阪市浪速区新川二丁目六八八番の二、宅地一七坪四合を国嶋甚一なる架空名義をもって賃借し、その頃同地上に第二建物を建築した(第二建物を昭和二六年一月に建築した旨の従前の主張を改める。)。野上は更に昭和二五年四月一日右土地の南側通路二坪四合を賃借し、控訴人大野は昭和二六年一二月一〇日野上から第二建物を買受け、竹中の承諾を得たうえ右賃借権を譲受けたものである。

控訴人西田の主張

訴外亀浦義雄は昭和二三年七月一日第三建物の敷地である大阪市浪速区新川二丁目六八八番の二、宅地一五坪を訴外永田貞治から賃借し、その頃第三建物を建築した。亀浦は昭和二四年三月一日改めて土地所有者竹中から右土地を賃借し、更に昭和二五年四月一日同番の宅地九坪五合四勺を賃借した。控訴人西田は昭和二八年二月一日亀浦から第三建物を買受け、竹中の承諾を得たうえ右賃借権を譲受けたものである。

控訴人三名の主張

一、第一ないし第三建物は、丁土地が甲土地の換地予定地として指定される以前から存在し、控訴人らは第一ないし第三建物の敷地である丁土地のもとの地番六八八番の二土地を適法に賃借していたものである。このような場合土地区画整理施行者は原則として建物の所有者に対し移転を命じ、従わない場合には行政代執行法により強制的にこれを除却して換地予定地を更地としたうえ使用開始日を指定し、その期日に換地予定地を権利者に引渡す義務を負っているものである。換地予定地の指定をなすにあたり使用収益が可能となるべき日が確定している場合には、その日を換地予定地指定通知に合わせて通知し、これが未確定の場合は、使用開始日を追って指定する旨を通知すれば足りるのである。したがって、被控訴人は右施行者から使用開始日を指定されて始めて換地予定地を使用収益する権利が発生するものである。しかして丁土地について未だその指定がなされていないから、被控訴人は丁土地を使用収益する権利はなく、控訴人らに対し第一ないし第三建物の収去、丁土地の明渡しを求める権原はない。

二、被控訴人が南海電鉄との間において甲土地と乙土地とを交換する契約を結んだことは認める。しかし、換地予定地に対する権利は公法上のものであって、従前の土地所有者に一身的に専属するものであるから、従前の土地の交換により換地予定地に対する権利を交換することはできない。したがって、被控訴人は丁土地の使用収益権はないのみならず、控訴人らは丁土地に関し民法一七七条の第三者に該当するから、右交換をもって控訴人らに対抗しえないものである。

控訴人大野、同西田の主張

仮に控訴人大野、同西田が丁土地を占有する権原がないとしても、被控訴人が被る損害は賃料相当の損害であるところ、第二、第三建物は昭和二五年七月一〇日以前に新築に着手し、建坪延面積三〇坪未満の居住用建物で、その敷地も三〇坪未満であるからその地代は地代家賃統制令の適用がある。したがって、右被控訴人の損害は同令によって制限される地代の範囲内に限られるものである。

証拠≪省略≫

理由

一、≪証拠省略≫によると、甲土地はもと南海電鉄の所有、乙土地はもと被控訴人の所有であったところ、大阪市長は特別都市計画法に基づき大阪特別都市計画事業土地区画整理施行者(以下施行者という。)として、昭和二五年四月二二日南海電鉄に対し甲土地につき丁土地を換地予定地として、昭和二三年一二月八日被控訴人に対し乙土地につき丙土地を換地予定地としてそれぞれ指定通知したことが認められ、被控訴人が南海電鉄との間において昭和二六年九月七日乙土地と甲土地とを交換したこと、控訴人竹村が丁土地上に第一建物を所有し、その敷地五四坪六合九勺を占有し、控訴人大野が丁土地上に第二建物を所有し、その敷地九坪一合四勺を占有し、控訴人西田が丁土地上に第三建物を所有し、その敷地一〇坪一合を占有し、控訴人大野、同西田が丁土地七坪九合五勺を通路として占有使用していることは当事者間に争いがない。そして≪証拠省略≫によると、丁土地の位置、範囲は別紙目録(一)記載のとおりであり、第一ないし第三建物の位置及び丁土地上の第一ないし第三建物の敷地並びに通路の位置、範囲は別紙目録(二)記載のとおりであること、同目録第一、一(別紙図面(五))及び第三(同図面(四))の各建物の丁土地内に存在する部分はそれぞれ同図面赤線で囲む部分であることが認められる。

二、まず、控訴人らは、換地予定地に対する使用収益権は公法的な権利であって従前の土地所有者に一身的に専属し、従前の土地の交換によって、その所有権を取得した者が右使用収益権を取得しないと主張するので判断する。換地予定地の指定は公法上の処分であるが、その効果として発生した換地予定地の使用収益権は、従前の土地の所有者等がこれを使用収益できないものとされる代りに与えられるものであり、右使用収益権は、従前の土地の処分に伴い、これと運命を共にすべき一種の付随的な権能であるから、従前の土地を承継取得した者は、換地予定地の使用収益権を取得するものといわねばならない(土地区画整理法一二九条)。したがって、被控訴人は南海電鉄との間に、従前の土地乙土地と甲土地とを交換し、甲土地を譲受取得したことに伴い、丁土地について使用収益権を取得したものというべきである。

三、次に、控訴人らは、丁土地に関し民法一七七条の第三者に該当するから被控訴人は甲土地と乙土地との交換をもって控訴人らに対抗しえないと主張するので判断する。後記認定のとおり控訴人らが丁土地の換地予定地指定前の土地について賃借権を有するものであるが、控訴人らが丁土地の従前の土地である甲土地について賃借権を有することはその主張・立証しないところであるから、後記のとおり甲土地の換地予定地たる丁土地について使用収益権を有しないものというべく、したがってその不法占有者たる控訴人らは丁土地について取引関係のある第三者ということはできない。したがって、被控訴人は交換による甲土地の取得について所有権取得登記なくしてその所有権、したがって丁土地の使用収益権を控訴人らに主張しうるものというべきである。

四、更に控訴人らは、第一ないし第三建物は丁土地が換地予定地として指定される以前から丁土地上に存在し、かつ控訴人らはその敷地を適法に賃借していたから、かかる場合土地区画整理施行者は換地予定地の使用開始日を指定すべきであり、その指定がない限り被控訴人は丁土地を使用収益することができないと主張するので審究する。

まず控訴人らが丁土地を換地予定指定前に賃借していたか否かについて判断する。

(一)  控訴人竹村について

≪証拠省略≫によると、控訴人竹村は遅くとも昭和二四年二月頃に別紙図面(一)(二)(五)の部分に木造亜鉛葺平家建住宅一棟建坪四坪、木造亜鉛葺二階建住宅一棟建坪三坪、木造亜鉛葺平家建住宅一棟建坪五坪の各建物を建築(右各建物がそれぞれ同図面(一)(二)(五)の何れの部分に建築されたかは明らかでない。)して所有し、昭和二四年三月一日に右建物敷地所有者訴外竹中寛二との間に、同敷地大阪市浪速区新川二丁目六八八番の二(以下同所の表示は地番のみでする。)宅地三三坪五合につき賃貸借契約を結び、昭和二五年四月一日に右契約坪数に誤りがあったため六坪七勺を追加賃借したこと、その後控訴人竹村は右各建物を増改築し第一建物となったことが認められる。

(二)  控訴人大野について

≪証拠省略≫によると、訴外野上清定は昭和二四年八月頃別紙図面(三)の部分に第二建物を建築して所有し、昭和二五年四月竹中との間に国嶋甚一名義をもって右建物敷地六八八番の二、宅地一七坪八合四勺につき賃貸借契約を結び、更に同月一日同番の二宅地二坪四合を追加賃借したこと、控訴人大野は昭和二六年一二月一〇日野上から第二建物を買受けるとともに、竹中の承諾を得たうえ右賃借権を譲受けたことが認められる。

(三)  控訴人西田について

≪証拠省略≫によると、訴外亀浦義雄は昭和二三年七月一日竹中から土地を賃借していた永田貞治との間で六八八番の二、宅地一五坪につき賃貸借契約を結び、別紙図面(四)の部分に木造タタキ葺平家建(中二階)家屋約一二坪を建築して所有し、昭和二四年三月一日竹中との間で右土地につき改めて賃貸借契約を結び、更に昭和二五年四月に同番の二、宅地九坪五合四勺を追加賃借したこと、控訴人西田は昭和二八年二月一一日亀浦から右建物を買受けて右賃借権を譲受けたが、竹中との間で改めて右土地のうち一一坪二合につき賃貸借契約を結んだこと、その後控訴人西田は右建物を二階建に改築し、内部を改造したりしたが、昭和三八年頃火災のため建物のうち約八ないし九割が焼失し、その跡同一基礎の上に第三建物を建築したものであることが認められ、≪証拠省略≫によるも右認定を覆すに足りない。

≪証拠判断省略≫

右認定事実によると、控訴人らは丁土地が換地予定地として指定される前からの賃借権に基づき丁土地を占有し、かつ第一、第二建物も右指定前から存在していたものというべきである。

ところで、土地区画整理事業の施行者は、換地予定地上に使用収益の障害となる物件が存在するときは、その換地予定地について、使用収益を開始することができる日を、換地予定地指定の効力発生の日と別に、定めることができるものとされている(土地区画整理法九九条三項・同法施行法六条、特別都市計画法((昭和三〇・四・一廃止))一四条三項)。それは、使用収益権者と換地予定地の所有権者等との法律関係の混乱の生ずることを防ぐことを目的とするものであるが、たとえ前記障害物件が存する場合であっても、それが間もなく除去される見込があることなどもあるのであって、施行者は必ずしも使用開始の日を別に定めなければならないものではない(もっとも、その見込違いがあり、施行者が障害物件を除去させなかったことが違法とみられるときは、これがため従前の土地の所有者が被った損害は賠償せらるべきである、最判昭和四六・一一・三〇民集二五巻八号一三八九頁参照)。使用開始の日を別に定めるか否かは施行者の裁量にかかるものというべく、障害物件が存するにもかかわらず、施行者がこれを定めなかったからといって、換地予定地指定の効力に影響をもたらすものではないといわねばならない。単純なその指定の結果、その効力発生の日(指定通知の日)の翌日から、従前の土地の所有者は当該換地予定地を使用収益することができるものであり、その反面、換地予定地の所有者、賃借権者等は、当該換地予定地を使用収益することができなくなるものといわねばならない(土地区画整理法九九条一、三項・同法施行法六条、特別都市計画法一四条一、三項)。してみると、従前の土地(甲土地)の当初の所有者たる南海電鉄は、丁土地について換地予定地の指定通知のあった昭和二五年四月二二日の翌日から、その譲受人たる被控訴人は、甲土地を譲受取得した昭和二六年九月七日から丁土地を使用収益することができるものというべきである。それ以後控訴人らは、占有すべき権原なくして、これを不法に占有しているものというほかはない。したがって、控訴人らは被控訴人に対し、それぞれ前記各所有建物(別紙物件目録(二)記載第一、一・第三の各建物は赤線部分)を収去し、その敷地部分を明渡すべき義務があり、控訴人大野、同西田は通路部分を明渡す義務がある。

三、控訴人らの右不法占拠により被控訴人の被っている損害の賠償義務及びその額についての当裁判所の判断は、次のとおり付加するほかは、原判決九枚目表六行目から同裏七行目までの理由記載と同一(ただし、原判決九枚目表一一行目の「鑑定人佃順太郎の鑑定の結果」を「原審における鑑定人佃順太郎、当審における鑑定人都築保三の各鑑定の結果」と改め、同一二行目の「本件建物」の前に「少なくとも」を加える。)であるから、これを引用する。

控訴人大野、同西田は第二、第三建物の敷地の地代は、地代家賃統制令の適用があるから、被控訴人の賃料相当の損害額は同令によって制限される地代の範囲内に限られるべきであると主張するが、もし控訴人らが前記建物を速やかに収去しておれば、被控訴人において建物を新築することができたものであり、その場合は同令の適用はないものというべきである。控訴人らの右主張は採用できない。

六、してみると、右と同旨の原判決は相当であり、本件各控訴は理由がないから、これを棄却することとし、なお、控訴人らの丁土地占有部分、したがって建物収去・土地明渡しを命ずる部分(位置・範囲)を明確にするため原判決主文第一の文言をあらためるべく、民訴法三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山内敏彦 裁判官 阪井昱朗 宮地英雄)

〈以下省略〉

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